Preciously  第2章―疑問


 いつもどおりデュランは小型のアサルトナイフをジャケットに、
そして刃渡りが1m以上もある愛剣バレディオンを持ち家を出た。
「準備はいい?」
外ではルオンが、彼を待っていた。
ルオンは仕事の時はいつもクローと呼ばれる鍵詰めを装備していた。
「ああ。お前の方こそ、下調べは?」
ターゲットの屋敷の見取り図など下調べはいつもルオンが行うのである。
「もちろん。」
差し出す彼の手には家の見取り図らしい紙が握られていた。
「よし、ミッションスタート。」


 ウェルソン=ルイナスの屋敷は彼等の家から車で30分程度のところにあった。
近くの森で車を止め、そこからは息を殺し屋敷に近づいていく。
屋敷に10mあたりまで近づいたところで、扉付近に警備員2名の姿が確認できた。
「さて、まずはどう忍び込むか・・・だな。」
ルオンが瞬時に屋敷の周りを見回し、答える。
「屋敷の庭はかなり木が生い茂ってる上にこの暗さだ、僕とデュランのスピードなら
 相手が気づく前に気絶させられるよ。」
「そうだな。だが、必ず一撃で眠らせろよ。」
「僕がミスすると思う?」
デュランは余計な事を言ったと思い、苦笑し、二手に分かれた。
物音を立てないように警備員に一番近い木の下まで移動し、身を潜める。
向かいの木の下のルオンからの合図を待つ。
2人の警備員が言葉を交わした瞬間にルオンが合図を出す。
二人は木の下から飛び出し、拳を警備員のわき腹深くに打ち込んでいた。
時間に直せばおそらく1、2秒程度の出来事だろう。
警備員は声を出す間もなく、その場に倒れた。
「さて、ひとまずは上手くいったな。」
「でも、ここからが本番だよ。」
いつもはヘラヘラしているルオンだが、今の彼は真剣そのもので、
その顔は冷酷そうにも見えた。
扉をそっと開け中に侵入して近くの柱に身を隠した。
「んで、ターゲットの部屋は?」
「2階の奥、東側の部屋だよ。」
柱から顔を覗かせたデュランは、この屋敷の尋常でない広さに少なからず驚きを覚えていた。
広い上にルイナス社社長宅ともなればセキュリティーもかなりのものだろう。
「行くぞ。」
意を決したようにデュランが呟き、二人は素早く飛び出した。
広間の奥に階段が見えた瞬間、またも警備員の姿が目に入った。
「またか。」
舌打ちまじりにデュランが言う。
「僕に任せて。」
そういうと、ルオンはポケットから10cm程度の針をとりだすと、警備員めがけて投げつけた。
その針は鮮やかに警備員の首に命中し、警備員はその場に倒れた。
ルオンの技に感心する間もなく、また二人は飛び出し階段を駆け上がる。
2階にはどうやら警備はいないらしかく、足音一つ聞こえなかった。
二人は素早く目標の部屋の前に行き、扉を開く。
「僕が見張ってるから。」
デュランは頷き、ターゲットが寝ているであろうベッドにそっと歩みよった。
「悪いな・・・。」
アサルトナイフを取り出し、ターゲットにナイフを振り下ろす。
刹那、窓からの月の光がターゲットの顔を照らす。
デュランは驚き手を止めた。
「ち、違う・・・。」
こちらの異変に気づいたのかルオンがこちらに顔を向けている。
もう一度ターゲットの顔を確認する。
「女・・・?」
ベッドに寝ていたのはデュランたちと、そう歳も変わらないであろう少女だった。
「ヤバイ!」
ルオンがこっちに向かって小さく叫んだ。
はっとして彼に向き直る。
事態はすぐにデュランにも理解できた。
明らかに誰かがこちらに向かって歩いてきていた、それも一人ではない。
ルオンもさすがに焦りの表情をみせている。
「どうする?」
「どうするも、こうするも・・・。」
デュランの声をさえぎるように、凄い勢いで扉が開いた。
「アスカ様の部屋に忍び込むとは、貴様ら何者だ!!」
中年の剣をもった男が3人怒鳴りながら入ってきた。
格好を見ると、先ほどの警備員の仲間らしい。
おそらく気絶させた警備員が見つかってしまったのだろう。
「アスカ様!?」
ルオンはようやくここがターゲットの部屋でないことを悟った。
「どういうことだよ!ターゲットの部屋じゃないぞ!」
デュランが厳しくルオンに問う。
しかし、今の状況はそんな疑問の解決を許してはくれなかった。
「何をごちゃごちゃと・・・!!この屋敷に忍び込んだからには、どうなるか分かっているんだろうな!!」
リーダー核の兵士の怒号が部屋にこだまする。
「くっ・・・やるしかないか・・・!」
デュランは仕方なくバレディオンを構えると、ルオンもそれに続いた。
警備員たちは剣を構えると一斉に突進してきた。
リーダー核の警備員が振り下ろしてきた、剣を受け止めると、空いた腹部を蹴り込む。
もう一人の警備員を巻き込みリーダー核の警備員は吹き飛んだ。
残りの警備員もルオンも拳により、悶絶しうずくまっていた。
「ちっ!まさかこんなミスしちまうとは・・・!」
怒りをあらわにいているデュランをよそにルオンは信じられないといった顔をしている。
「そんな・・・。ゴメン、デュラン!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ。逃げるぞ!」
逃げようと窓に近寄った瞬間にリーダー核の警備員が言葉を発した。
「無駄だ、屋敷の下には・・・俺の指示で警備兵が10人以上待ち構えている・・・。
 どうしたところで逃げられはせん・・・!」
二人は絶望に絶句した。
「ふわぁ・・・。何よ・・・騒がしいわね・・・。」
先ほどの少女が今の騒ぎのせいで目覚めてしまったらしい。
少女は部屋を見回し、その尋常でない事態に明らかに驚きの表情を浮かべた。
「あ、あなたたち誰!?」
デュランは何かを思いついたかのように、彼女のもとにゆっくりと歩みよっていく。
「何よ!?」
怯えた表情の彼女の腕を掴むと、デュランはルオンに向き直った。
「こいつを人質にして逃げるぞ。」
デュランの言葉にルオンは我が耳を疑った。
「僕たちは仕事で関係ない人には危害を加えないんだろ!?」
「だが、このままじゃ俺たちはここで終わりだ!!」
少女・・・アスカは恐怖で言葉がでないようだ。
少しの間があってからデュランが静かに口を開いた。
「俺たちが安全だって判断したら、帰してやるよ。」
ルオンは黙って頷くと、彼女を見て慌てて目をそらした。
そうやら女性のネグリジェ姿等が見慣れないらしく、近くにおいてあった彼女のものであろう服を
デュランに投げ渡した。
「確かに人質とは言え、一応年頃の女だもんな・・・。さっさと着替えろ。」
そういうとアスカは怯えながらも不思議そうな顔をして、二人を見ると素早く着替えた。
着替え終わったのを見計らうと、デュランは彼女を再び掴み
「行くぞ。しっかり捕まってろよ。」
彼女を抱きかかえ窓から飛び降りた。
二階とは言えかなりの高さがあり、さらに人間を抱えていたため着地の衝撃はかなりのものだった。
二人が降りた先に待っていたのは機関銃を構えた警備兵たちだった。
「大人しくしろ!抵抗すれば、打つ!」
その言葉を聴くと、デュランは抱えていたアスカを下ろし、前に突き出した。
その姿を見た警備兵たちは当然のごとくに驚きの表情をうかべた。
「変なまねすると、アスカちゃんがどうなっても知らねぇぞ?」
デュランがわざとヒールを気取った言い方をする。
「くっ!卑劣な・・・!!」
警備兵たちはしぶしぶ構えていた銃を下ろした。
「わりぃな。」
そう一言言うと二人はアスカを連れ、車の置いてある方へ向かって歩き出す。
屋敷の周りには、相手を目の前にしながら手を出せず、苦い顔をした警備兵たちだけが残っていた。
車へ向かう三人の間には気まずい感じの空気が流れていた。
二人にとっては仕方ないとは言え、自分たちの意思に反した行動をとったのだから当然のことと言えよう。
「ごめんね・・・。明日には帰して上げるから。」
ルオンが申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「最低ね・・・。」
このアスカの言葉は二人の胸に激しく突き刺さった。
「だいたい、あなたたちは何なの!?」
先ほどとは打って変わって強気な態度で二人に問う。
二人を見ていて危害を加えられることはないと思ったからだろう。
「暗殺屋だ。」
デュランがあっさりと答える。
アスカは驚きの表情を浮かべた。
「誰?・・・誰を殺したのよ!?」
凄まじい剣幕でアスカが捲り上げる。
「誰も・・・。」
「誰もって・・・そんなわけないでしょ!?」
「失敗したんだよ。ターゲットの部屋とお前の部屋と間違ってな。んで見つかって、パーだ。」
アスカは安心したのか涙ぐみうつむいた。
その姿を見て、二人は初めて、この仕事に疑問を感じた。
今までは、殺されて当然、いなくなれば周りの人が幸せになる、そう思いそういう仕事だけをこなしてきたが、
今回の依頼は違った、いや、今までの依頼もそうだったのかもしれない。
失敗していたことが唯一二人の救いだった・・・。
 しばらくして車が見えた。
しかし、二人はその異様な雰囲気を感じ取っていた。
「誰だ!!」
デュランが急に立ち止まり、叫んだ。
森の茂みがかすかに揺れ、暗闇の中から数人の人影が現れた。


第3章に続く・・・