日中環境戦略研究家 環境新聞「中国の最新環境事情」連載寄稿記事 

連載第6回(2005年10月)
中国の環境総事業費

 中国の環境総事業費は、90年代以降、大幅な伸びを見せている。今回は中国環境ビジネスに直結する中国の環境投融資の現状について考察する。

 中国環境投融資体制の歴史を大まかに振り返る。まず1973年、第1回全国環境保護会議を契機に本格的な環境政策を導入するようになった。当時は計画経済体制であり、環境事業費は全て政府予算から配分されていた。80年代の経済体制改革の深化に伴い、環境保護資金メカニズムは変化を遂げてきた。1984年の国務院の通達の中で、環境保護資金ルートが8つ明確化された。それによると、@新規建設に伴う環境投資、A更新改造に伴う環境投資、B環境インフラ整備投資、C汚染排出課徴金による環境汚染対策への補助、D廃ガス廃水廃棄物の総合利用による利潤保留分の環境汚染対策への投資、E銀行等金融機関による環境対策融資、F汚染対策基金、G環境保護セクター自身の建設整備投資である。

 1990年代からは、外国からの有償無償援助が増え、環境インフラの市場開放によるBOTTOT方式、証券市場など新たな資金ルートの開拓が進んできた。環境くじ、汚染排出権取引、生態補償システム等新たな試みも実施されている。さらに汚染者負担原則から、汚水処理費やゴミ処理費の徴収が徐々に広がっている。これに伴い、主要資金源も公的資金から民間資金へと移り変わってきている。

 一般に、環境事業費(政府予算、企業環境対策を含む)がGDP11.5%で環境悪化を食い止められ、23%で環境改善が図られ、改善の軌道に乗れば1%強で対応可能だという。中国の場合、環境事業費とは、新規事業環境整備費、更新改造環境整備費、都市環境インフラ整備費を指す。第6次五ヵ年計画(19811985)では環境事業費がGDP0.50%しかなく、その後、第7次(19861990)で0.69%、第8次(19911995)で0.73%、第9次(19962000)で0.93%と上昇を続けてきた。1999年、単年度で初めて1%を突破し、第10次(20012005)では1.3%達成に向けて努力が続けられている。金額では、第7476億元、第81307億元、第93460億元と大幅に増加し、第10次(20012005)では7000億元という目標に向けて努力が続けられており、前3年で半分を超えた。2003年単年度ではGDP1.39%にまで増えた。まもなく始まる第11次(20062010)では、13000億元(GDP1.41.5%)という目標が立てられている。ただし第10次以降は、生態環境整備費も含められている。

 資金源を見ると、更新改造環境整備費では、第8次までは政府予算が半分以上を占めていたが、第9次以降、企業自己調達資金の割合が大幅に増加し、外資も増加している。新規事業環境整備費では、専用の環境整備資金が資金源となっている。都市環境インフラ整備費では、都市建設維持税と地方財政が主な資金源となっているが、インフラ市場開放で、民間資金や外国資金も近年増加している。全体の資金源構成を見ると2001年データで、政府財政9%、金融機関23%、外国資金10%、企業自己資金34%、汚染排出課徴金5%、その他19%になっている。政府系環境投融資は、@財政支出、A国債発行、B汚染排出課徴金を利用した汚染源整備基金と環境投資会社、C使用者負担原則による汚水処理費とゴミ処理費、DPFI/PPPなどに分けられる。民間環境投融資は、@株式市場融資、A企業債券、B金融機関による融資などに分けられる。商業系金融機関は環境事業の融資回収期が長いこと、経済的利益が少ないこと、リスクが高いことなどから消極的であるが、各種政策措置の導入により、融資額は増加傾向にある。

 最後に、インフラ市場開放について。経済発展とともにインフラ整備の需要も急激に高まってきているが、政府は地方も含めインフラ整備の資金を十分に調達できないという問題に直面し、WTO加盟による市場開放圧力も手伝って2000年以降、インフラ市場を段階的に開放するようになってきた。2003年頃から国務院、建設省、地方で民間の参入を認める特別許可経営の制度環境を整えてきており、民間に建設及び一定期間の経営を認め、その後無償で行政に譲渡するBOT方式、行政が建設するが民間に一定期間の経営を認め、その後無償で行政に譲渡するTOT方式が、汚水処理場やゴミ処理場の建設整備に導入されるようになった。東部沿海地域でこれら方式導入例が相次ぎ、特に広東省深?市で多い。外国勢では仏Veolia社や英テムズウォーターなどインフラ市場開放の進んだ英仏の企業が圧倒的な強みを見せ、北京や上海など地域を丸ごと、給排水など水関連事業を丸ごと抑えているところもある。ただし、2004年には法制度の変更により大手海外ウォーター企業が撤退に追い込まれる例もあり、今後の動向次第では市場シェアは一気に変わる可能性もある。日本の環境産業振興のためにも、官民が一体となって中国に対して日本に有利な形での制度導入支援を行うことが期待されている。


連載第5回(2005年9月)
外国勢の動向

 日中の環境ビジネスを進める際には、日本側はどうしても日中二国間の問題だと見る傾向が強いが、実際の中国環境市場は日中だけでなく欧米や韓国、シンガポールなど多彩なプレイヤー構成になっている。中国市場はまさしく「世界の縮図」。中国側からは他の日本企業だけでなく他国企業や地元企業と天秤にかけられている点を忘れてはならない。今回は各国の対中環境援助と対中環境ビジネスという両面から俯瞰し、最後に今後の日中環境協力のあり方について提言したい。

 第一に、各国の対中環境援助について。二国間で最大の対中環境ODA拠出国が日本であり、その後にドイツ、英国、フランスが続く。米国は中国に直接ODAを供与していない。非ODAをも含めた対中環境協力の存在感では、日本、ドイツ、米国、英国、イタリア、EU等が傑出している。

 日本は対中環境援助をビジネスと切り離す傾向が強いが、他の国は必ずしもそうではない。欧州は、純粋な人道的援助の部分もあるが、中国環境市場参入のビジネス戦略も組み込んでいる。ある中国人専門家によると、ドイツは対中二酸化硫黄削減プロジェクトで自国技術導入を義務付け、市場開拓効果を狙っているという。カナダは、中国系カナダ人が環境省に何人も入っており、温暖化対策を中心に積極的な対中協力を進めている。近年、イタリアの環境協力はエネルギー対策、汚染対策の分野で積極的に展開している(具体的なプロジェクトは『中国環境ハンドブック0506年版』参照)。

 ODAの金額が多い日本は環境インフラ事業というハード面が多いが、欧米は共同研究、政策提言などソフト面も多い。少ない金額で効率よく中国の政策に影響を与えていく戦略である。特に中国の各種環境基準に対して、自国に有利な基準を導入してもらおうと攻勢をかけている。

 第二に、各国の対中環境ビジネスについて。日本の環境技術は世界的にも高水準にあり、中国も資金を投じてでもレベルの高い技術を導入しようという意欲も出てきているので、日本は中国の環境市場にはある程度、食い込めているといえる。しかし中国市場は欧米アジアや地元企業が激しく競っており「世界の縮図」になっている。

また中国では純粋な技術の技術性能や価格性能だけでなく、政治的要因も絡んでいるので、政府の支援が必要である。韓国は、韓中環境産業センターを北京に設置して、韓国環境企業の中国進出を支援している。欧州諸国は、対中環境協力の拠点を設け、情報収集とともに援助・協力による市場開拓、自国に有利な基準導入を働きかけるなどして自国企業を支援している。

 各国で強みが違うことも興味深い。自国でPFI体制が整った英仏企業は、中国で市場開放された上下水動インフラ市場で圧倒的に優位に立つ。ごみ焼却発電では日本勢も健闘を見せている。風力発電ではドイツ、スペインが強く、バイオマス発電では北欧諸国が強い。太陽光発電では日本勢も強い。中国CDM事業ではオランダが先行しているが、イタリア、日本の存在感も大きい。二酸化炭素に限定しない汚染排出権取引は米国が支援して中国国内でモデル事業を行っている。

 以上を踏まえ、今後の日本の対中環境援助・協力は日系企業の市場参入の間接的支援などビジネス戦略性を強化し、中国の環境政策や環境基準などに対して、日本に有利な形で導入してもらうように共同研究や政策提言などで働きかけ、他国競合企業の状況などの情報収集力を強化し、具体的な日中の環境ビジネスを支援していく拠点を設置するのが望ましい。日本の環境技術企業は、中小企業が多くて、全く商習慣の異なる中国での大きなビジネスリスクを背負えず、中国環境の専門人材の確保が難しく、中国進出に関心があっても現実上難しい場合が多い。他の諸外国のやり方、成功例を参考にしつつ、官民一体になって「日中環境ビジネス促進センター」なる拠点を、各種の情報が最も集まる北京に築くべきであろう。


連載第4回(2005年8月)
国家環境保護総局の権限と限界

 中国で環境行政を担当するのは国務院直属の国家環境保護総局である。今回は、同総局の権限についてまとめる。同総局は1988年に国家建設部から独立して国家環境保護局となり、1998年に今の総局に格上げされた。地方の環境保護部門と併せて、環境保全の管理監督、情報公開、計画立案、行政処罰、排出基準作成、強制執行などの権限を有する。

 第一に、環境保護部門の縦の系列についてだが、地方には省レベル、市・県レベルなどの環境保護局が設けられている。中央と各地方との権限の具体的な違いについては、日本語でも既存文献にあるのでここでは省略する。現場での環境行政は基本的に地方環境保護局が担当している。上級機関と下級機関はそれぞれ指導、協力する関係にあるが、人事や予算面で地方環境保護局を握っているのは環保総局ではなく地方政府である。このため中央と地方の環境部門が対立するという問題や、地方政府が経済発展を優先させて甘い環境行政を実施させるといった地方保護主義などの問題がある。

 次に、中央環境部門と他の行政部門との関係を見る。環保総局は広く環境行政を担当しているが、環境保全が幅広い領域に渡っていることから、汚染モニタリングや狭義の汚染対策など単独で担当する分野よりも、関連省庁と共同して担当することが多い。権限が重なっていることもあり、時に縄張り争いに発展することもある。「環境」は、環境保護(総)局だけの「専売特許」ではなくなっている。権限の重複、分担の主要例は次のとおりである。

 生態系保全分野では、森林保全や砂漠化対策、野生動植物保護などで林業局の権限が強い。農村環境や草原保全は農業部、土壌保持は水利部、海洋生態系保全は海洋局と権限を分け合っている。

 汚染対策分野では、エネルギーや資源、CDMなどの分野では国家発展改革委員会が強い権限を有し、近年日本からの輸入が増えている資源ゴミは検査検疫総局や税関、水質汚染は水利部、海洋汚染は海洋局、黄砂観測は気象局、汚水処理場やごみ処理場の整備は建設部、近年リサイクル制度が整いつつある廃家電汚染対策は情報産業部、排気ガス対策などは交通部、資源開発に伴う環境汚染対策は国土資源部と権限を分け合っている。

 また環境保全技術開発には科学技術部、違法行為の取締りには公安部や監察部門、広報教育には党宣伝部や教育部と権限を分かち合っている。

 化学、紡績、石油、電力などの産業には業界団体があり、その下に環境部門が設置されている。産業別環境対策では、業界団体との調整も必要になってくる。

 実際の現場での権限行使には、これら行政部門やその下級機関が複雑に入り乱れている。中国環境ビジネスには、必要に応じて関連の行政機関との関係が必要になってくる。日頃からの動向ウォッチが重要である。なお経済開発区(工業団地)には管理委員会に環境局が設置されているものもある。

 中国の政府部門は表向き、一枚岩になるのが通常だが、ここ最近は以下のような行政部門間の衝突も見られる。

 今年4月には水利部淮河水利委員会が『淮河流域主要汚染物制限総量指標』を公表したが、環保総局は、同総局が公表するはずであったと反発、水利部側はこれに対して、法律規定に基づいた行為であり越権行為には当たらないと反撃した事件があった。また今年から本格的に環保総局が中心になって環境汚染損失を差し引いたグリーンGDP構想を進めているが、国家統計局は表向き、資源の経済価値や環境汚染の損失額の確定は困難であるとして難色を示している。その一方で統計局は独自に循環経済指標を作る構想を持っている。この背景には総局に主導権を握られることに対する警戒心があると指摘する中国メディアもある。

 本連載第1回目で潘岳・環境副大臣の活躍ぶりを紹介したが、一方で同副大臣の批判の対象となっている発電所を抱える電力部門などから逆に圧力が加えられているという。国は、環境保全からより広く深い概念である持続的発展や循環経済の路線を進もうとしているが、環境保護部門が権限を発揮しようとすればするほど他部門との摩擦が増えるという構図はすぐに変わらなさそうである。他の省庁と同格の「環境保護部」への昇格や「持続的発展部」などが専門家から提起されているゆえんである。


連載第3回(2005年7月6日)
環境ビジネス 年率15〜25%の高い成長

 環境産業の総収入2700億元超

 5月に中国環境保護総局系列の業界団体である中国環境保護産業協会が中国環境産業発展レポートを公表した。今回は、このレポートを参考に昨年の中国環境ビジネス動向を紹介する。

 昨年の環境産業業界の総収入は2700億元を超え、各環境産業の年増加率は1525%と、全国GDP成長率よりはるかに高い。昨年、中国環境汚染対策事業の投資総額は1910億元で前年比17.3%増、これはGDP1.4%を占める。

 昨年の中国環境産業動向には、以下の特徴がある。

@どの分野も1520%の高い成長率を維持している。排煙脱硫、電気集塵、バグフィルター、水処理等は20%を超える成長率であった。特に火力発電所排煙脱硫の市場は最も高い成長率を維持してきた。

A各分野の専門性が高まった。各メーカーは、従来の多角経営方針から得意分野に特化した生産経営方針へと転換した。ブランド意識や品質に対する意識も向上した。

B各種の国内外の資金が引き続き都市環境インフラ市場に流れ込んできた。実力を備えた企業集団がゴミ処理場、都市汚水処理場、医療廃棄物場等公共事業に参入した。

C注目を集める重要技術と設備は輸入に頼り、自主開発能力も先進国と比べて大きく遅れている。

D金属等鋼材価格が高騰し、生産メーカーの販売量は増えているものの利潤は減少している。


 発電所排煙脱硫 前年比7倍に

 昨年の各環境分野の重点市場分析は以下の通り。

@汚水処理分野
 伸びは大きく、建設事業請負額は3割増、製品販売額も25%増、汚水処理分野全体では25%〜30%の伸びが見られる。水関連産業は一方では良好な長期的投資の見通しがあるが、また一方では法整備や管理体制の遅れによる市場投機の影やハイリスクハイリターンの局面もある。全体的には、昨年中国の水関連産業は市場経済化の初期段階にあり、対外開放、ハイリスクハイリターンという特徴がある。

A大気汚染防止分野
 火力発電所排煙脱硫分野では、昨年12月末までに排煙脱硫導入済みまたは導入中の火力発電所の発電容量は累計133832MWになった。導入済みは16065MWで、全火力発電所発電容量の4.9%を占める。湿式が主流である。昨年の契約総額は310億元で、前年比7倍となった。主要技術はドイツ、米国、日本、イタリア、オーストリア、スウェーデン、韓国から導入しているが、導入技術の重複も多く見られる。脱硫市場の価格競争は一層激しくなってきた。

 電気集塵機分野では、金属等鋼材価格の高騰で、試練に直面した。全国工業経済連合会は中国環保産業協会に「鋼材価格高騰で集塵装置産業に存亡の危機」というレポートを送付していた。しかし各方面の理解と協力により、この難関を越えることができた。03年の契約額は80億元近くで、04年には100億元の大台を超えた。また昨年は専門化、集中化が進み、上位三社で契約総額の半分を占めている。

 バグフィルター分野では、製鉄、セメント、電解アルミ、電力等の業界の好調さに支えられて年生産総額が50億元を超えた。これは前年比50%増である。輸出量も前年比65%増である。

 排気ガス浄化の分野は、安定的成長であった。中でも飲食業油煙浄化市場は、飲食業排出基準の制定のために伸びが著しい。

 ゴミ焼却処理の需要も増加

B固形廃棄物処理分野
 昨年8月に公表された都市建設統計年報によると、全国都市ごみ処理場は575ヵ所、ゴミ処理能力は日量21.9万トン、都市ごみ処理率49.7%である。昨年建設された埋立場ガス発電所は5ヵ所、総発電容量は4kWである。またごみ焼却処理の需要も増えつつあり、昨年建設された大型集中生活ゴミ燃焼場は5ヵ所、処理能力は日量3900トン。昨年建設中が9ヵ所以上、処理能力は日量5400トン以上となっている。昨年メディアで合肥、山西省運城、四川省等の堆肥処理をメインとする処理場が正常に稼動していないという事件が発覚して以来、堆肥処理の市場は低迷している。

 危険廃棄物処理分野では、今年初めに国務院が「全国危険廃棄物・医療廃棄物処分施設建設計画」を批准し、全国で31の総合危険廃棄物処分センター、300の医療廃棄物集中処分施設と31の省級放射性廃棄物保管庫を建設する計画を立てた。しかし資金不足等の影響で、建設は遅れている。立地や廃棄物の構成、特性、数量、適切な処理方法等でも困難を抱えている。

C環境モニタリング分野
 中国の固定汚染源連続自動モニタリングシステムは、01年の蘇州全国環境モニタリング会議以降、急速に導入が進んでいる。国産の連続自動モニタリングシステムの市場開放と企業間競争の激化により、海外のシステムの価格も下落している。この分野全体では販売総数は大幅に増えているが、単価が下がっており、販売総額はそれほど多く増加していない。


   1.環境汚染対策事業の市場動向

事業

環境投資

2000

2002

2003

2004

(億元)

割合()

(億元)

割合()

(億元)

割合()

(億元)

割合()

総額

1060.7

 

1363.1

 

1627.3

 

1908.6

 

環境インフラ

561.3

52.9

785.3

57.6

1072.0

65.9

1140.0

59.8

既存汚染源対策

239.4

22.5

188.4

13.8

221.8

13.6

308.1

16.1

新規事業汚染対策

260.0

24.5

389.7

28.6

333.5

20.5

460.5

24.1

環境製品・サービス市場(億元)

450580

600750

730890

8501050

2000年比成長率

/

28

53

80

出典:中国環境保護産業協会 中国環境産業発展レポート(2005)


連載第2回(2005年6月8日)
環境研究機関の現状  民営化で競争激化、格差も

 中国科学院、環境保護総局など6系列

 今回は、中国の環境研究機関の現状について整理する。

 現在中国では「市場化」という言葉が良く使われる。これは民営化、産業化といった意味だが、特に国営企業の民営化改革が日本では注目される。この動きは研究機関も同様である。第九次5か年計画(96年〜2000年)後半の1999年から2000年にかけて、朱鎔基総理は合計376の国の研究機関の民営化等を行い、市場と研究との、一層の緊密化による、研究成果の産業化と社会経済への還元を目指した。その手法は研究機関にお金儲けの自由を与える代わりに、人員を削減し、予算も大幅カットという大胆で厳しいものであった。このため、研究機関同士の競争が激しくなり、格差も拡大している。中国研究機関とのつきあいには、以上の状況を踏まえた対応が必要である。

 次に中国の環境研究機関をまとめると、中国科学院系列、環境保護総局系列、他の省庁系列、大学系列、民間系列、その他と6つに大別できる。

 第一の中国科学院は、国務院系列の研究機関である。その数は多く研究レベルも高く、北京だけでも40以上の研究所を有する。環境に限れば、生態環境研究センターが環境・生態系研究の中心的存在になっている。その他、北京では化学研究所、大気物理研究所、リモートセンシング応用研究所、植物研究所、地理科学・資源研究所等が環境・生態系研究を手がける。地方では、山西石炭化学研究所、海洋研究所、東北地理・農業生態研究所、南京土壌研究所、水生生物研究所、広州エネルギー研究所、寒区旱区環境工程研究所等がある。

 第二は環境保護総局系列の研究機関である。その中心的存在は北京の中国環境科学研究院である。地方には南京、華南の両環境科学研究所も擁している。日本のODAで建てられた環保総局直属機関である日中友好環境保全センターにも、環境経済研究センター等の研究機関がある。地方には各地の環保局直属の研究所があり、例えば北京市には北京市環境科学研究所があり、遼寧省には遼寧省環境科学研究所や瀋陽市環境科学研究所、大連市環境科学研究所等省と市の研究所を有している。

 第三は他の省庁系列の研究機関である。各省庁は独自の研究機関を持っている。従来、環境研究はなかったが、環境重視の流れの中で、各機関の得意分野を生かす形で環境研究を手がけるようになった。環境保護総局の場合と同様、中央所属のもの、地方所属のものもあるので、その数は多い。以下、中央省庁系の環境研究機関の一部を列挙する。

国家発展改革委員会:エネルギー研究所、発展研究センター
   林業局:中国林業科学研究院、経済発展研究センター
   水利部:中国水利水電科学研究院、長江水資源保護科学研究所
   気象局:気象科学研究院
   建設部:中国建築材料科学研究院
  農業部:中国農業科学院、計画設計研究院
  国家品質監督検疫検査総局:中国標準化研究院

 北京市を例に地方級省庁系研究機関を挙げると、北京市建築材料科学研究所、北京有色金属設計研究総院、北京市労働保護科学研究所、北京市市政工程設計研究総院、北京紡績環境保護センター、北京市水利科学研究所等が挙げられる。

 第四は大学系列である。近年は総合大学化の流れにあり、環境学部学科のある大学も増えている。環境に強い大学は、清華大、北京大、同済大、南開大、南京大、浙江大、ハルビン工業大、北京師範大、人民大、武漢大等である。その他、個別の分野で非常に優れた大学も多数存在する。

 第五は民間の研究所である。国電環境保護研究所等の企業系、北京天恒可持続発展研究所等のNGO系の研究所がある。後者は、兼職で勤務している人が多い。企業系は、他の研究機関から独立してできたものも多い。

 第六はその他として、軍系列の人民解放軍環境科学研究センター、五州工程設計研究院、国務院所属の中国社会科学院系列の環境・発展研究センター等がある。ただ軍系列は、民間では近づきにくい。

 研究機関が多数存在 水準など北京が優位

 以上から、中国の環境分野の研究機関は非常に多いことがわかる。ただレベルは、環境に限らず科学技術分野全般で国際的にまだ高くはない。地域別では、研究機関や研究者の数、研究レベル、予算、国家政策への反映されやすさ等で北京がかなり優位にある。

 最後にこれら研究機関を評価する際の基準としては、院士(中国科学院・中国工程院の会員。科学技術分野で最高の権威ある称号)の数、博士課程を指導できる「博士生導師」教授の数、重点実験室(国家−省庁別−地方級)、SCI論文数等がある。エネルギー関連の環境問題では発展改革委員会のエネルギー研究所が強いように、元来の専門分野に由来する環境研究を得意とする点も重要である。

中国2004年環境科学・工学ランキング

順位 名前 順位 名前
1 浙江大学 6 ハルビン工業大学
2 中国科学院生態環境研究センター 7 北京師範大学
3 清華大学 8 南京大学
4 同済大学 9 南開大学
5 北京大学 10 中国海洋大学

出典:中国大学・研究機関教育評価所データ2004

中国の教授系統、研究系統、エンジニア系統の職階

教授系統

研究系統

エンジニア系統

教授級

教授

研究員

教授級高級工程師

助教授級

副教授

副研究員

高級工程師(高工)

講師級

講師

助理研究員(助研)

工程師

助手級

助教

実験員

助理工程師


連載第1回(2005年5月11日)
潘岳・環境副大臣の姿勢 環境政策の方向性を示唆

 環境アセス法違反の電力建設プロを公表

 2005年1月18日、国家環境保護総局は環境アセスメント法違反の電力建設プロジェクトの名簿30件を公表し、行政処分を行う姿勢を示した。内訳は火力発電所20件、水力発電所3件、送電3件、他に石油化学、製紙、道路、堤防など。今回公開された名簿の中、一部の発電所では、環境影響評価書を提出せずに、建設工事・操業開始をしたことが国家環境保護総局の調査で分かった。

 環保総局はさらに216日に46ヶ所の脱硫装置の未導入発電所の名簿を公表した。全国の5大発電集団公司(華電集団、華能集団、国電集団、大唐集団、中電投集団)19社の発電所が名簿に入っていた。

 中国環境アセスメント法は、20039月に施行され、このときが初めての大規模な取締りであった。この取締りは、中国のメディアでも大きく報じられ、2004年に吹き荒れた「審計風暴」(多くの機関、企業で大規模、厳格に実施された腐敗の有無を調べる監査)に続く「環保風暴」(環境対策のあらし)とされ、日本の新聞でも報道された。日本の新聞では、景気の加熱抑制策として実施されたという分析が紹介された。

 しかしこれら違法事業を発表した環保総局のスポークスマンを務める潘岳・副局長(環境副大臣)に焦点を当てた日本のメディアは少ない。潘氏はもともと環境部門上がりではなく、従軍経験をもち、中国環境報、中国青年報副編集長、国家国有資産管理局副局長、国家品質技術監督局副局長、国務院経済体制改革室副主任を歴任、20033月に環境保護総局副局長に43歳の若さで就任した。そして潘氏はこれまで何度も議論を巻き起こしている。

 例えば、潘氏は中国環境報という官製の環境新聞の設立に関わり、同報の第一号記者となった。数多くの現地取材で無数の環境違法行為を目にし、ある時、雲南省の環境汚染事件に対する暴露、批判の記事を書いたところ、逆に雲南省から告訴され、危うく記者生命を失うところだった。しかし潘氏はこのことを後悔せず、むしろ誇りにしているようである。環境保全に対する積極的な姿勢は、この環境報記者時代の経験が大きいように思われる。その後も、中国青年報時代に若者に自由な議論ができる場を提供したり、国内であまり注目されなかった国有資産流失問題を大々的に提起したり、偽造品取締り活動を展開したりして、議論を巻き起こし、国民の注目を集めた。

 電力業界は李鵬元首相との関係が深いとされ、権限の弱い環保総局が、環境アセス不備という理由であろうと発電所建設停止命令を出すのは困難である。マクロ経済部門出身の潘氏がいたから可能であったとも言える。それでも環保総局の越権行為だ、電力需要が逼迫している今はやるべきではない、改革は徐々に進めるべきとの批判も尽きない。潘氏は、法律に基づいての取締りであり、本来の役割を果たしたに過ぎない、現在の発電所建設計画は過多で数年後に電力供給過剰になると反論する。この環保総局の姿勢は温家宝首相の注目を引き、温首相も高く評価している。


 持続的発展社会の実現目指す

 潘氏の目指しているのは、政府が提唱している科学的発展観(バランスの取れた経済発展を強調)に基づく持続的発展社会の実現である。この姿勢は、どの部門に在籍してようと一貫している。環保総局副局長である今、環境保全という切り口からこの持続的発展社会の実現を進めようとしている。一人当たりGDP80001万ドルになってから環境問題を解決できるとする先進国モデルと比べ、中国東部発展地区でさえ同3000ドル程度なのに環境問題が深刻化しており、このモデルは中国に適用不可能であり、このままで経済発展を続ければ環境問題は危機的になるという意識を持っている。また特に環境法制度整備、市民参加に入れている。環境アセス体系への公聴会導入、大学の環境クラブ幹部研修の開催、芸能人による環境意識向上の活動を展開する環境文化促進会の主宰など、中にはユニークな事業もあり、環保総局職員の一人は潘副局長就任以来、環保総局の雰囲気がよくなったと証言している。

 環境アセス違法事業の公表以来、中国の多くの環境NGOも潘氏を強く支持する姿勢を示しており、潘氏の今後の動向は、中国環境政策の方向性を示すものとして、注目に値する。