1.配布物
その日の調査員にファイルを渡します。ファイルには以下のものが入っています。
<統括者・定点調査者共通>
・フィールドノート 1冊
・持ち歩き用地図 8枚
<定点調査者のみ>
・シカチェックシート 8枚
定点調査者用のファイルは、それぞれのメッシュごとに一つずつあります。それぞれのメッシュを担当する調査員は毎日変わります。調査者一人一人にファイルが一つあるわけではないので注意してください。
また、以下のものはこのマニュアルと同時に発送しています。全てそろっているかよく確認し、調査のときに忘れずに持参して下さい。
・ ヤクシマザル調査マニュアル(このプリント)
・ ニホンザル 性・年齢判断基準の図
・ 調査員名簿
・ 調査地図(班分け図)
・ 調査地名図
2.調査の流れ
この調査の目的は、
「調査域内のニホンザルの集団密度(集団数/km2)を推定する」ことと、
「調査域内のニホンザルの集団の構成を調べ、出産率などの人口学的資料を収集する」ことです。調査地は伐採後様々な年数を経た地域と自然林を両方含んでいます。この調査を今後も継続することによって、サルが伐採後の森林の更新過程と対応してどのように土地利用のやり方を変化させていくのか、またこの地域のニホンザルがどのようなメカニズムで個体数を変動させているのか(個体群動態)を明らかにすることを大きな目標としています。
1番目の、集団密度を推定するためにわれわれが用いる方法が、ブロック分割定点調査法です。これは、以下のような手順で行います。まず、調査域を「調査地図」にあるように500m四方のメッシュに分割します。それぞれのメッシュの中のサルの音声の聞き取りやすい場所に一人、定点調査員を配置します。定点調査者は一日その定点に留まって、主に音声をもとに集団を探します。それぞれの定点調査者の集団発見頻度をもとに、その定点周辺での集団密度を推定します。
一方、4‐6つのメッシュ(1-1.5km2、4‐6人の定点調査者)をまとめて一つの班とし、そこに1人ないし2人の統括者を配置します。統括者の役割は、定点調査者とトランシーバーで連絡を取り合い、定点調査者が発見した集団を追跡することです。統括者の集団追跡の記録と定点調査者の記録を突き合わせることによって、定点調査者が調査地内にいる集団を発見できる割合(発見率)が分かります。このように、統括者の役割の一つは定点調査者の資料から集団密度を推定するために必要な発見率を求めることにあります。
2番目の目標である集団の構成については、統括者が集団を追跡中に、集団が林道を渡る時などの機会をとらえて調査します。また、調査域内には、現在全頭が個体識別された集団(HR群)があります。この集団については、個体識別のできる調査者(統括者)が、調査中に各個体が集団内にいるかどうかを調べることによって、調査時点での集団の構成を再確認します。 今年の調査では前期に@A班、後期にBCD班の調査を行います。
3.ヤクシマザル調査法(定点調査者)−集団を発見した場合
具体的には、定点での調査中は、以下のようにデータを取って下さい。情報は、フィールドノートと持ち歩き用地図に情報を記入します。ここで書いてあるのはサルが集団でいるのを発見した場合に何を記録するかについてです。オトナオスが単独でいるのを発見した場合については5.ヒトリザル調査法を参照してください。
サルの集団に関する情報があった場合、それらはフィールドノートに基本的に全て記録して下さい。また、それと同時に、サルに関する情報はすぐにトランシーバーで統括者に連絡してください。情報には情報の種類、時間と場所(方向)を必ず記入して下さい(当たり前のことですが、方向は東西南北で書いて下さい。「サルが右から左に移動した」ではデータになりません)。場所は地図上に番号を落とし、それと同じ番号をフィールドノートに記入して下さい。また、「何もない」ということも情報ですので、何もなくても30分に1回は状況を記入して下さい。調査終了時刻は、統括者の指示に従ってください。
なお、1.配布物にある通り、ファイル、フィールドノートは各々のメッシュに一つずつ割り当てられるものです。調査員の皆さん一人に一つずつ割り当てられるものではありません。メッシュの調査員が交替する時には、ファイルにフィールドノートやまとめ用紙などを一式はさんで次の調査員に渡してください。
定点調査は、毎日常に同じ状態で調査を行うことが重要です。ですから定点調査者は、基本的に動いてはいけません。目安として、20m以上は移動しないで下さい。
主なサル情報は、以下の通りです。
音声(vocalization、V)
・クーコール 集団内での鳴き交わし。50-100mしか届きません。これが聞こえるときは集団がすぐ近くにいる場合です。
・悲鳴 ギャー、キャー。数100m届きます。
・威嚇音 ガッガッ。数100m届きます。
・枝バキ音、足音 もちろん、足音だけではサルと判断できませんが、すぐ近くに集団がいるときには足音で気付くことがよくあります。
*アオバト、シカの声など、慣れないと区別が難しいものがあります。自信がなければそのように書いて下さい。
目視(direct observation、D)
定点のすぐ近くにサルが現れた場合、次のような優先順位で記録を取って下さい。
@最低で何頭のサルがいたか、どこから現れてどこに行ったか。
Aどのような性年齢の個体がいたか。
-------性別は♂・♀、年齢はA(adult、オトナ)・YA(young adult、ワカモノ)・J(juvenile、コドモ)・I(infant、アカンボウ)で記入して下さい。性年齢とも、判別できない場合は必ず?として下さい。サルの性年齢の見分け方は、別紙を参考して下さい。なお、オトナのオスが単独でいるのを発見した場合は、5.ヒトリザル調査法にしたがって記録を取ってください。
Bケガや毛の生え方など、個体の特徴。
-------特徴ある個体が見つかれば、その集団を次の日、あるいは来年以降発見したときに同じ集団かどうか判断するのにやくだちます。そのため、このような個体を見つけることは、非常に重要です。HR群のサルについては、統括者が識別表を持っていますので、あとで参照できます。見分け方のこつは、P.31を参照して下さい。
C その個体がどのような行動をしたか。とくに、サルがなにを採食していたか。
その日の調査が終わったら、まとめ用紙と提出用地図を統括者から受け取り、それにその日のデータをまとめて各自のファイルに綴じ込んで下さい。決してフィールドノートを丸写しするのではなく、その日に取ったデータをわかりやすくまとめて下さい。この調査のまとめは、必ずその日の夕食前に行って下さい。後に回すと調査中の印象が薄れてしまいます。また統括者は定点調査者のデータを見ながらその日の班ごとのデータをまとめるわけですから、遅れることは統括者にとって非常に迷惑になります。まとめが終わったら統括者に全てをファイルにはさんで統括者に提出し、翌日自分が担当するメッシュのファイルを受け取ります。
以上のことをまとめます。毎日この手順で調査を行って下さい。
@定点調査者はメッシュ内の定点に陣取り、サル情報をフィールドノートと持ち歩き用地図に記入する。そのとき、情報の種類、時間、場所が必要。また、統括者とトランシーバーで交信してサル情報を伝える。
Aその日のデータを提出用地図とまとめ用紙にまとめファイルにとじる。
4.ヤクシマザル調査法(統括者)
統括者の役割は、重要な順に
@定点調査員を定点まで連れて行ったり、危険なことなどが起こった際に、現地で班員に指示を与えること。定点調査者に調査終了の指示を出すこと。
A集団を追跡すること
Bその集団をカウントすること
です。集団を追跡するのは、定点調査者の情報から集団密度を追跡するのに必要な発見率を求めるためです。ただし、追跡ができる集団は限られており、そのほかの集団は地形が急峻だったり人を見るとサルが逃げたりして追跡は困難です。そのような場合は追跡を行う必要はありません。追跡できる集団が自分の班内に出現している場合はそちらを優先して下さい。
基本的に、資料の分析は各時間帯(7:00-8:00、8:00-9:00)単位で行いますが、調査時間が30分未満の時間帯は分析には含めません。したがって、15時29分に調査を打ちきった場合、その定点、ないしはその集団の追跡記録の15時台の資料は分析には含まれません。可能であれば毎時00分まで調査を行うようにしてください。なお、定点調査の場合、調査時間が6時間未満だったり、悪天候の場合なども、同様に分析は行いません。調査終了の判断はおのおのの統括者にお任せしますが、この点にもご留意ください。
定点調査者からの情報などによって集団を発見したら、地形が非常に険しい場合以外は、集団を直接観察できる、あるいはクーコールや枝バキ音が聞こえる程度まで近づいて、集団を追跡してください。集団が調査域外に出てしまった場合も、安全と判断される限りは追跡を続けてください。ただし、無理は禁物です。調査中に取る記録は、定点調査者に準じます。集団の位置情報はとくに重要ですから、30分に1回程度は、集団の広がりの真中と推定される位置を地図上に記録して下さい。集団がほかの班の調査域へ移動した場合にその班の統括者に引き継ぐかどうかはその場で適宜判断してください。また、識別個体がいるかどうかに注意して観察してください。
サルの集団が林道を急いで渡るとき、集団の全個体を数えることが可能になります。その時には、追跡者どうしで綿密に連絡を取り合い、同一個体を違う人が重複して数えないように注意してください。
5.ヒトリザル調査法(定点調査者のみ)
群れと離れて単独で動いているオトナのオスのニホンザル(ヒトリザル)の密度を算出するには、ニホンザルの群れを発見した場合と異なる資料が必要です。周りにサルの音声が聞こえず、自分自身も声を出さない単独で動いているオトナのオスのニホンザルを目撃した場合、時刻、定点からの距離と方角を記録して下さい。距離は10m単位で記録し、20mより近いときには、1m単位で記録して下さい。方角はコンパスを用いて360度で記録して下さい。最初に目撃したときから5分経過した場合、ないしはヒトリザルが10m以上動いた場合、時刻と定点からの距離、方角を再度記録して下さい。また、ヒトリザルを見失ったときは、最後に確認した時刻と、定点からの距離、方角を記録して下さい。ヒトリザルの密度を算出するには、定点からヒトリザルのいた位置までの正確な距離を知ることが重要です。自信がない場合は、ヒトリザルのいた位置を覚えておき、その日の定点調査終了後に歩測などによって距離を測って下さい。
6.ニホンジカ調査法(定点調査者のみ)
シカについての情報は、サル用のフィールドノート・まとめ用紙には記録せず、すべてシカ用のチェックシートに記録し、それぞれの定点のファイルにはさんでおいて下さい。
調査中シカを目撃した場合、頭数、性年齢、時刻、定点からの距離と方角を記録して下さい。性年齢は当歳仔(0歳)、1歳以上のオス、1歳以上のメスの三つに分けて記録してください。詳しくは下を見てください。距離は5m単位で記録し、30mより近いときには、1m単位で記録して下さい。方角はコンパスを用いて360度で記録して下さい。最初に目撃したときから5分経過した場合、ないしはシカが10m以上動いた場合、時刻と定点からの距離、方角を再度記録して下さい。また、シカを見失ったときは、最後に確認した時刻と、定点からの距離、方角を記録して下さい。シカの密度を算出するには、定点からシカのいた位置までの正確な距離を知ることが重要です。自信がない場合は、シカのいた位置を覚えておき、その日の定点調査終了後に歩測などによって距離を測って下さい。
また、実際に目撃できなかった場合でも、シカの音声を聞いた場合は、声の聞こえた方角と距離、音声の種類を記録して下さい。音声だけの場合は距離は正確にはわかりませんので、おおよその距離でかまいません。
<シカの性年齢の区分> 当歳仔は「片手で抱えられそうなくらい」明らかに小さく、母親の約3分の2くらいの大きさしかありません。たいてい母親といっしょに行動しています、1歳以上のオスには角があります。1歳のときは枝分かれのない1尖の角を持っており、成長するにしたがって枝分かれの数が増えていきます。最大で4尖になりますが、屋久島でみられるのはほとんどが3尖までです。メスにはオトナになっても角がありません。
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