【サワレナイ】

 

友枝中学校には広い食堂がある。
もちろんそこでシェフが作る料理を味わうこともできるし、持参したお弁当を持ってきて食べる生徒もいる。
が、夏になるとやはり衛生面の心配からか、お弁当を持って来ている生徒はぐんと減ってしまう。決められているわけではないのに、ほとんどの生徒がそこで調理されたものを食べるようになる。だから、このシーズンに、たまに食堂でお弁当をひろげたりすると、おおっという羨望のまなざしで注目されたりするのだった。

夏休み前のある暑い日。
賑やかな食堂の一角で、生徒が10人ほど固まって昼食をとろうとしていた。
その中に1人、お弁当を持って来ていた男子がいて、皆はわっと集まりそのお弁当に注目した。

「今日は弁当か?いいなーっ!」
「ちゃんと保冷剤が入ってるよ、暑さ対策は万全なんだねえ」
「白ご飯多すぎ!けどやっぱ健康男子の弁当は、こうでなくちゃだよな」
「コラ、ひとの弁当、じろじろ見るなよ〜、」

弁当の主は蓋で弁当を隠そうとするが、両隣前後から覗き込まれとても隠すどころではない。
悪ガキがひとり、テレビのレポーターよろしくメニューの説明を始めた。

「えーおかずといたしましては、まずは玉子焼き……甘い系でしょうかしょっぱい系でしょうか気になるところであります、それから肉じゃが……おそらく昨晩のおかずが再登場ですね、あとはタコさんウィンナー……おやおや肉系が続きますね〜野菜もちゃんと食べないとおおきくなれませんよボク」

まわりはクスクス笑いながら聞いている。
弁当の主は、恥かしそうにしつつも、無視してぶっきらぼうに箸と口を動かし食べ進めている。

「おっと口にしたのは、ギョーザ!ここでギョーザであります!」
「おい、ギョーザって」
「ギョーザはやばいだろう!」
「えっ、ギョーザ?なんかニュースでやってたよね?」

ギョーザの一言に、まわりのテンションがさらに上がった。
というのも、ここ数日、冷凍ギョーザに農薬が混入されていたというニュースが世間を騒がせているせいだった。
連日ニュースやネット、週刊誌で報道されるものだから、中学生の耳にも十分その詳細は入ってきていた。

「うちのは手作りだっっ」
とお弁当の主は声高に主張したが、悪ふざけが大好きな年頃の男子たちは、
「危険だぞ!ギョーザは危険!」とはやしたてる。
失礼だぞとかばう声や、舌がしびれてないかという心配の声も混じり、その一画はさらに騒がしくなった。
が、テーブルの一番端にストンと座った山崎の一言で、即座にその場は沈黙に沈んだ。

「あのニュースで出てきた冷凍ギョーザ、作っているのは『李食品』じゃなかったかなあ」

シーン……

そこに居た生徒たちは、急に口をつむぎ顔を見合わせた。
そういえば、例のギョーザが作られている工場は中国で、何度もその映像がテレビに映し出されていた。
そして、小狼の実家が香港で有数の財閥だということは、他の生徒たちもうすうす知っていた。
しかし、このギョーザと小狼の実家・李家を結びつけることができた者は誰もいなかったのだ。山崎の情報を聞き、まさか本当に?という気持ちでいっぱいになった。

「ってことは、あのギョーザを作っているのって、李君ちの……?」
「しっ!」


山崎の隣に座っていた男子が人差し指を立てた。

噂の張本人・小狼が食事を載せたトレイを持ち、山崎を追うようにしてやってきたのだ。

「おい山崎、夏休みの奉仕活動の計画書、今日の昼までに提出だったぞ」
「あ、そうだったかな、うっかりしていたよ」
「まったく」

そして山崎の前に、ストンと座った。
小狼が手にしたトレイの上には、食堂の日替わりセットが載せられている。
それを見た者達は、目を点にした。
なんと今日のおかずは、奇しくも焼きギョーザだったのだ。
あまりのグッドいやバッドタイミングに、ごくりと皆固唾を飲み込んだ。

ギョーザ・・・農薬・・・中国・・・李・・・ギョーザ・・・農薬・・・
という連想の輪を、何度も思考がぐるぐるとまわる。


「……なんでみんなこっち見てるんだ?」
「いやっ、なんでも。あははっ」
「今日は食堂、混んでるな。なっ」
「ああほんとうに」

誤魔化そうと意識して慌てた生徒のうち、ひとりの口が滑った。

「やっぱギョーザはウマイよな。シェフの手作りに限る。イテッ」
「(……余計なこと言わないの)」

隣に座っていた女子にどうやら足を踏まれたらしい。

「でもうちの父ちゃんも、母ちゃんに言ってるぞ。冷凍はもう買ってくるなって。……イテテッ!」

この男子生徒、地雷を丁寧に踏み続けてしまう特技を持っているらしい。
皆、この男子生徒を無言かつ厳しい目で責める。
少しおかしな雰囲気に、小狼は不思議そうな表情をした。

「??……たしかに、既製品よりも、自分の好みの味で作った手作りのほうが、美味いと思う」

と、きょとんとしたまま、律儀にギョーザ話に返事をする。


「まあまあ。もうギョーザの話はいいじゃない。それより僕の頼んだミートソーススパゲティ、今日は牛肉の割合がさらに増えていてさ……」

山崎がかぶせるように話に入ってきた。
どうしたことか、全くキレのない語り口に、一同はしらーっとした。
けれども。
小狼と仲の良い山崎でさえ、こんなその場しのぎのどうでも良い話をしてギョーザから話題を変えようとしていることに全員が気付いた。すなわち、非常事態だということに他ならなかった。そう理解したとたん、背筋に冷たいものが走る。

(これはもしかして)

(ヤバイことになるかもしれないぞ)

(あの時みたいに……)

口には出さないが、みな同じ場面を頭に描いていた。

1年ちょっと前、小狼がこの友枝中に転校してきて間もない日のことだ。
授業中、デリカシーのないことで知られていたひとりの教師が、小狼にこう言った。
『財閥の坊ちゃんはいいよなあ。香港マネーで簡単に日本に留学できるんだもんな』
言葉そのものより言い方がいやらしく、聞いているほうも眉をひそめた言葉だった。が、なにしろ相手は体もでかく、厳しい指導が好きな体育教師だ。
対してこちらは中学に入りたての小童たち。小狼をかばえるだけの勇気も知力も無く、黙ってなりゆきを見守っていると、小狼はその教師を無言でしばらく睨み、最後にフっと哂って言い返したのだ。

『お金は多ければ良いというものじゃなく、【使いかた】が問題なんです』

当時、小狼のほうがまだ身長はかなり低かったのに、声と目線だけであきらかに教師を威圧し、見下していた。その教師は、ぐぅと唸りそれ以上何も言わなかった。
間もなく、その教師は過疎地に転勤になった。
それは偶然なのか必然なのか、誰にもわからない。
しかしその時の小狼の態度や、その教師の顛末から、「李君コワイヒト」というイメージが一時定着してしまったほどだ。
知世あたりだと、小狼が「簡単に」日本に来たわけでは無い事を知っているから、小狼の怒りがどれほどだったか理解できていただろう。
事情を知らない者からしてみても、自分の家の稼業のことをあんな風に言われて良い気がしないのは当然だったが、あの転校生は怒らせたらめちゃくちゃ怖い、という部分だけが印象に残った出来事だった。



「……なんか変だな……味」

小狼が、そのギョーザをごっくんと飲み込んでから、自分の皿に視線を落としたまま呟く。

「なにがっ。まさか、農薬がっ」
「ば、バカ!」

すると小狼が、あ、と小さく呟いた。

「ポン酢じゃなくて普通の醤油だ。間違えた」
「な、なんだ」

1瞬の間に緊張が高まり、次の瞬間に弛緩する。
心臓がかなり激しい運動をしたときのように鼓動した。
これが続くと身が持たない、と皆は考えた。
とにかく、このお騒がせな食べ物から話題をそらさなくては。

「そういえば、李、さっき先生に呼ばれてたよな。何の話?」

小狼は質問をした男子のほうを見て答えた。

「ああ。ちょっと実家のほうでゴタゴタがあって、その心配をしてくれて」
「実家?!うわ、やっぱり、食品工場がへ(もごもご)……」
「(バカタレ!)」

食品工場が閉鎖されたことか、と言いかけた男子が隣の男子から口を押さえられた。
小狼がやはりその様子をけげんそうに見ながら、返事をする。


「……香港で大きな地震があったから」
「な、なんだ」
「そうだったよな、朝ニュースでやってたな。ハハハ、いや笑い事じゃなくてな」

話題を離れようとすればするほど、ギョーザの中心に陥ってしまう。
これは何の罠だろうか。
もう不自然な気遣いをするより、話そのものをやめたほうがよさそうだ、と思い始めた頃。



「わあーいい匂い。わたしも今日は日替わりにすればよかったな」

その場の雰囲気がコロリと一転した。
急に世界が明るくなったようなキャンディボイスが降ってきたのだ。
さくらの声だった。
それはもう天使の声に聞こえた。
彼女さえ居れば、いつもの他愛もないほのぼのした空気が戻ってくるに違いなかった。
「あっ、さくらちゃ……じゃなくて、木之本さん」
皆、すがるような視線をさくらに送る。

「わたしもご一緒していいかな?」

「「「「どうぞ!!!」」」
1オクターブ高くなった声が同時に返事をした。
ありがとう、とさくらは笑顔で小狼の隣に座る。

「ね、これおいし?」
「なかなか。ほら」
「ん、ありがと」

小狼の皿を覗き込んださくらに、小狼はギョーザのひとつをさくらの口に放り込んでやった。ほんとだ〜と頬を押さえながら嬉しそうな顔をした。

「本場の味を知っている小狼くんが美味しいっていうんだから、間違いないよねーっ」

まわりの者は、いつもならおまえら新婚かとかなんとか突っ込むところだが、そんな気も今日は起きない。
皆の願いはただひとつ。
「その食べ物の話題はさけてくれよ木之本さん」だった。
ほのぼのした空気は期待通りだが、なんとかギョーザからは離れてくれないだろうか。
しかしそんな切ない願いは、さくらには届かなかった。

「あっ、そうだ。ギョーザといえば」

みなの心臓がドクンと跳ね上がった。
やめろ、やめてくれ。
その次の言葉はわかっている。例のニュースだ。


「前に小狼くんの姉様たちが送ってくれたギョーザも、すっごく美味しかったよね」
「そんなことあったか?」
「ほら、半年くらい前。傘下に入った食品会社が出してる、冷凍食品だって……」
「ああ。そうだったな」

この会話を聞きながら皆は、ささやかな希望の光を見つけていた。
例の事件の話でこそなかったものの、ニアミスともいえるギョーザの話題。
その「ギョーザ」という言葉が出ても、特にそれ以上の反応はなく、小狼の口調は淡々としている。
先ほどからギョーザに振り回されてヒヤヒヤしているのは、考えてみると自分たちだけだ。
ほらギャグでよくあるではないか。
実は、小狼の家は全く関係なかったというオチ。
中国では「李」さんはたくさんいる。

『ただの早トチリ?』

しかしその希望の光はニセモノだった。

「で、この前からテレビでやってるギョーザ事件って、その会社なの?」

((((ヒィィ!!!)))))

皆は心の中で悲鳴をあげた。
さくらがいきなり地雷を踏んだのだ。
今まで皆が隠して遠ざけてうやむやにしてしまおうとしていた大きな地雷を。
頼む、否定してくれ。
すがるような目がいくつも小狼の答えを見守る。
すると小狼はあっさり答えた。

「ああ、そうだ」

光は消え、ズーンと地の底に落ち、黒い霧が目の前を覆った。
心配していたことが現実のものになったショックで、皆の目は点になったりうつろになったりしていた。
当事者が自分たちの同級生にいたなんて。
実家がそういうことになって気の毒だという気持ち半分、これまでギョーザの話を振ってきた自分たちに密かに怒りを持っているのではないかという不安が半分、みなの心を黒く覆った。
すると、ここまで黙ってみていた山崎が、さすがに口を挟んできた。

「あれは、会社も被害者のようなものだよね。何かで逆恨みした従業員が混入したセンが強いそうだしさ」

ナイスフォローだ山崎。
さすが気の置けない友人。
そうだ、決して李家を批判したわけではないんだ。
このままオチてくれたら言う事なしだ。
希望の光、ふたたび?
と眼に輝きを取り戻した途端、さくらが、ぷうと頬をふくらまして反論した。

「違うよう、従業員のひともその会社の家族のようなものでしょう?家族がしたことは、どんな理由があっても、その家全体の責任だよ」

ふたたび凍りつく空気。
さくらに向けた多くの視線はすべて同じことを語っていた。

『もしかして、木之本さんってKY?』

「ぽややん」も今のご時世だと「空気が読めない」と変換される、天然っ子には世知辛い世の中だ。


しかし。
小狼はその言葉に憤慨するでもなかった。


「そうだな。家族、そのとおりだ。雪花姉上も同じ事を言っていた」

これも美味いぞ、とさくらにデザートの杏仁豆腐をスプーンにすくって差し出す。
さくらはそれも食べて、うわぁほんとだあ、とにこっと笑う。
その笑顔につられて、凍り付いていたその座の一同も、つられてにこっと笑った。
よかった、なんとか修羅場にならずにすんだようだ。
小狼はさくらに甘い。
この程度で怒りをかうような愛情ではないのだ、悔しいけれど。
と皆が生ぬるい視線をふたりに送っていると、その眼が衝撃で細目になった。
せっかく平和におさまっている空気を、さくらが修羅場へと引き返そうとしたのだ。

「幸せになるために美味しいもの食べるのに、農薬で吐いちゃうなんて……本当にお気の毒だよ」
と悲しそうにため息をつきながら、責めるように小狼を見ている。

パキ……パキパキパキ……

山崎をはじめ、一同は細目のまま石化を始めていた。
何度もせわしなく凍りつかされたり解かされたりする凍結より、もういっそ石になってしまえという心境だった。
あの過去の教師更迭事件のとき、友枝中の全員が心の中で叫んだではないか。

『李君に実家ネタはアンタッチャブル』

それが……今、その不可侵条約が破られる危機に直面している。


「あと、お金を払えばいいっていうもんじゃないよね?」
とさくらは言いにくそうながらも、禁句に最も近い言葉を可愛い唇で唱えた。


ギャーー!!
このうえお金は、お金の話だけはやめて!!!
みな声にならない悲鳴をあげた。
ここまでくると、きっとただの痴話喧嘩で済まない。
もしも、このふたりに万一のことがあれば、学校全体の色んなバランスが崩れてしまう。
そのくらい、小狼とさくらは友枝中で多くの意味で存在感と影響力があった。


――――だが。
その心配は無用だった。


「もちろんそれで済むと思ってない。被害にあった人たちの苦しみは、十分に話を聞いてよくわかっているつもりだ」

と小狼は怒るどころか、むしろバツが悪そうに答えた。
ここで山崎が思わず口を挟んだ。

「ってもしかして、李君本人がその人たちに会ってきたの?」
「ああ。当然だろう。一応経営側の1人として」

と普通の顔をして答える。

なんだそうか。
事件は解決に向かっているらしく、幸運にも微妙な時期ではなかったらしい。

「そっか。大変だったんだね。もうすぐオリンピックだし、これからトラブルが増えそうで、そっちも大変になりそうだねえ」

相槌を打ちつつ、山崎がこれしかないというタイミングで話題を変えた。

「ああ、オリンピックは、準備がまだまだ必要みたいだな」
と小狼が振られた話題に乗ってきたので、安堵の波が広がった。

「そうそう、あの『鳥の巣』ってスゲーよな」
「開会式も最新技術もりだくさんみたいで、楽しみ!」

ナイスアシストだった、山崎よ。
よし、これでギョーザの話題は終わりだ。
最初に弁当にギョーザが入っていた男子は、自分がきっかけで皆を窮地に追いやった責任から、もう祈るような表情になっている。
このままオリンピックに話題が流れてくれればいい。

しかし甘かった。
この流れを、気付かないのかまたは気付いていて無視しているのか、とにかく自分の言いたい事を言ってしまわねば気が済まない人物がひとり居た。



「だけどね、被害者さんだけじゃないよ。農薬入れちゃったひとも、同じように何か苦しかったんじゃないかな?会社の偉いひとたちも、何も気付かなかったの?」

さくらの取調べは続く。
厳しい、厳しすぎるよ木之本さん。
涙目になる一同。
そこは警察に任せようよ。
もしくはワイドショーのレポーターの役割だよ。
せっかく山崎が方向転換をしたのが水の泡だった。

案の定、小狼は、さくらの言葉に一瞬表情をこわばらせた。
そして見るからに不愉快そうに眉をひそめて、視線を下に落とした。

その様子を見て、ビクビクッという擬音が見えそうなほど、皆、背筋を震わせた。
いくら木之本さん溺愛李君とはいえ、「偉いひとたち」というのがひっかかったのではないか。彼女本人がそういう意味を含めたとは考えにくいが、捉えようによってはすごく皮肉めいた言葉だ。
それはさすがにNGだったのではないか。
先ほどからの地雷のダメージも積もっていただろう。
まさか、悪夢再び?
皆は固唾をのんで、ただ嵐が起きない事を祈るばかりだ。

小狼は、陶器製の箸をわざと音を立ててタン!と置いた。
そのテーブルに座していた者全員が、同時に大きく震撼した。
ついに堪えに堪えていた静かな怒りの火がついてしまったようだ。

もう遅いが、天然とはいえ、いくら小狼本人の想い人とはいえ、やはりこのギョーザの話題はまずかった。
さくらの口を押さえてでも止めるべきだった、と山崎はじめ皆の目が後悔の色に染まっていた。

小狼はなかなか口を開かなかった。
辺りは静まりかえっている。
嵐の前というのはこんな雰囲気なのか。
小狼はやっと重たそうに口を開いた。
キタ!と皆、心の中で頭を抱える。


「言い訳じゃないが、前経営者時代の軋轢が原因だったんだ。そこはもう改善されているから」

――――あれ?怒ってない。

むしろ申し訳なさそうな口調だった。
束の間、小狼が憤慨していたかに見えたのは、さくらの言葉ではなく、どうやら前経営者のことを思い返してのことだったらしい。


な ん だ ……


最大の緊張の糸がゆるみ、燃えてもいないのに皆は灰になった。
灰が出来ることといったら、ふたりの会話の続きをただボケーと眺めることだけだった。


「ちゃんとその人の問題も、解決されてるんだね」
「ああ。最善の策は講じた」
「あとね、わたしたちも悲しいんだよ。あんな美味しいギョーザがもう食べれなくなっちゃったら、本当に辛いもの。ちゃんと工場がまた動くように、なんとかしてください。経営者さんっ」

さくらは怒った顔のまま、最後のギョーザを一口でパクっと食べた。
小狼は笑いながら、わかってるとさくらの追求を手で制した。

「今はもう会社も工場も従業員も、皆で再建にむけてがんばってるみたいだから」
「ほんと?だったら、よろしい♪」
「厳しいな、おまえは。特に食べることに関しては」
「やだあっ、そんなことないようっ!もうっ小狼くんのいじわるっ」

肩をドンドンと叩くさくらの拳を、だってそうだろと笑顔で受ける小狼。


はあ〜〜〜〜と数十人が一度に溜息をついた。

なんだ、いつものバカップルだ。
やっぱりあの皮肉教師と木之本さんじゃ、相手が違いすぎるよな。
当たり前といえば当たり前だったが、それに振り回されもう疲れてしまったよママン―――――

気付かないうちに、爆破予想危険区域は食堂全体にひろがっており、山崎たちだけでなく、爆発に巻き込まれそうだと懸念していた周囲の生徒たちがいっせいに安堵と疲労の表情を浮かべた。
が、小狼とさくら当の本人たちは皆の疲労した様子に全く気付かず、きゃっきゃっとふざけあいを止めない。それが余計に皆の疲労度を高くした。

「結局は、俺達のひとり相撲かよ」
「ひとりじゃないけどな……」
「安心したというか気が抜けたというか」
「でもスゲーよな、木之本さん」
「うん、すごいよね。さくらちゃん」

最後は、さくら賞賛の言葉に変わってゆく。

さくらは、けっして空気の読めない人ではない。
ただ、ロシア製の最新兵器爆弾の信管も素手でさわり「もお危ないよ〜」と笑顔で偉いひとを叱りながらスイッチをオフにしてしまえる人だったのだ。


「小狼くん、わたしのB定食も食べてみる?」
「そうだな。俺のギョーザおまえにほとんど取られちゃったし」
「じゃあ一緒にたべよっか。はいお箸♪」
「ああ」

バカバカしい、とふたりを残して次々と席をたってゆく。
しかし、その中で、小狼とさくらを真剣な眼で見つめる者が居た。
山崎だった。
触れたら爆死してしまうと今まで信じていた小狼の心の堅い壁……すなわち「李家の謎」に対し、思いっきりさくらが切り込んでいき、しかも一番奥までさわっても無事だった様子を目の当たりにして、山崎はこう考えていた。

将来、就職に困ったら、李君の実家に世話をお願いしても案外大丈夫かもしれない―――


いやいや、それはどうかな山崎君♪♪



おしまい★



阿呆なネタですみません。書き始めたの、まだオリンピックの前だったんだよな〜。
今回は、何が心残りって山崎君が良いとこなしだったことです。
ごめんよたかすぃ!!
しかしほんっとに、嵐の歌とは関係ない話で重ねてすみません……(^_^;)





 

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